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番外編 再び決勝トーナメントの話

朝日新聞の決断

 Jリーグのセカンドステージの劇的な優勝が決まり、U−19がアジア2位となり、トヨタカップではボカ・ジュニアーズ(アルゼンチン)がレアル・マドリード(スペイン)に勝ち、2002年の段取りが一歩、一歩進み――と、11月はまことににぎやかだった。その一つひとつに、20世紀の終わりにあって、サッカーがようやく日本の国内でも野球――とまではいかなくても、それに近いメジャースポーツとして市民に認知されているあかしが見られるのは、とてもうれしいことだし、その日本サッカーが世界でも認められるようになったのも、まことに結構なことだ。
 その2002年関連のニュースのなかに、朝日新聞社がオフィシャル・サプライヤーになったというのは、とても面白かった。
 この新聞は大正7年(1918年)の関東蹴球大会の後援や、関西での戦前、戦後のビッグゲーム「朝日招待」などのイベント開催があり、編集では、サッカー記者の草分け、山田午郎さん(故人)をはじめ多くの優れた記者がいて、私たちも敬意を払っていたが、全社的にはやはりサッカーはマイナー。大阪でも東京でも販売店主の多くは「うちは高校野球。サッカーは読売でしょ」という人が多い。
 そういう親代々の販売店を持つ本社が、ワールドカップのオフィシャル・サプライヤーになった、というのはなかなかの決断だし、そいういう手があったのか、と驚きもした。
 お金を払ってワールドカップを自社の宣伝に利用することになるだろうが、朝日のような大メディアが、大会と直接関係することは、それだけ報道にも力が入るだろうし、また、用語の使い方なども、公式のものでないもの、たとえば1次リーグ(グループリーグ)を突破して、“決勝トーナメント”へ進む――といった公式用語にないものを避けるだろう――と想像するのはうれしいことだ。


リーグ戦のカタール・トーナメント

 というのは、FIFAで第2ステージ、あるいは第2ラウンドと呼んでいる16チームによるノックアウト・システムの、いわば大会の後半部を、日本のメディアは「決勝トーナメント」と呼んでいるが、「FINAL TOURNAMENT」といえば、例えば98年フランス大会そのものを指すことになる。
 トーナメントというのは、一ヶ所に集まって勝者を決める大会のことで、ノックアウト・システム、リーグ・システムに関係はない。
 1994年の米国ワールドカップのアジア最終予選、日本のいわゆるドーハの悲劇も、アジア最終トーナメント(Asian Final Tournament in Qatar)で、その試合のやり方は1回戦総当たりのリーグ戦だった。


高校野球のノックアウト・システム

 この「トーナメント」という言葉を英和辞典で引くと、「勝ち抜き試合」とあって、スポーツ用語集にはこれにわざわざノックアウト方式と書き加えているものもあるが、世界ではどうやら、そうではないらしい。
 私自身も、50年前に記者稼業に入ったとき、トーナメントとノックアウト・システムを同義に思っていた。高校野球のように、甲子園に集結して行なう大会が、ノックアウト方式であるために、トーナメント(大会)といえば、ノックアウト方式と思い込んだためだろう。
 ついでながら、リーグというのは、もともとグループという意味で、同じレベル(Jリーグ1部)のもの、あるいは大学生という同じ身分のもの(東京六大学野球リーグ)を言い、その勝者を決めるラウンド・ロビンと称する総当たりのやり方が、リーグ・システムという言葉を生んだ。しかし、日本のようにトーナメント方式イコールノックアウト方式という常識は、世界にはない。
 もともとこの間違いは、日本協会が公式の出版物にも××大会で1次リーグ(さすがに予選を経てきた本大会で予選リーグと言う人は減少したが)を突破して決勝トーナメントへ進んだ――などといまでも記しているから、まず、ここから正さなければならない。
 これはワールドカップの入場券の販売のときにも(当然、決勝トーナメントのチケットとは言わないから)かかわる問題。国際的な分野で日本のスポーツの先端をいくはずのサッカーが決勝トーナメントというものだから、1次リーグの後、ノックアウト・システムに入るすべてのスポーツの大会(ラグビーなどでも)で、決勝トーナメントと言っているのが、サッカーにかかわるものとして、いささか申し訳ないことでもある。
 たかが用語の一つ――ではあっても、そこに長い間の積み重ねがあって面白くもあり、難儀でもあるが、まあ21世紀には世界共通の使い方にしたいもの。
オフィシャル・サプライヤーとなったビッグ・メディアに期待をしつつ、師走を迎えるのである。


(週刊サッカーマガジン2000年12月27日号)

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