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番外編 フランス戦の教訓から

トルシエ監督の1対1練習

 3月24日のフランス戦の完敗から守備力強化、特に1対1で激しく粘り強く戦うことをテーマにした日本代表のトレーニングが4月10日のテレビで伝えられた。
 サッカーはチームゲームであるけれど、ボールをめぐる個々の戦いでもある。組織で守り、一人の相手を何人かで囲んでボールを取ることと同時に、一人で相手に立ち向かいボールを奪うこともある。トルシエ監督があらためて1対1、ボールをめぐる個々の戦いを強調し、その守備について声を大きくしたのは、選手たちにも、日本サッカー界にも結構なことだ。
 もちろん、2日間のトルシエの強調だけで、代表の1対1が強くなるわけではない。選手たちがその意識を持ち、日ごろの試合でその姿勢を貫いて能力アップを図ることだ。
 もともと、いまの日本サッカーでは少年のころから、ボールを奪い合うことが少ないため、トップ級のプレーヤーも平均して対敵動作がうまくなく、ボールを奪うための予備動作、アプローチや間合いに入るときの「構え」が良くない。このために、重要な場面でのタックルミスやファウルで自滅した試合も少なくない。
 あのドーハの悲劇も、その発端となった第2戦の対イラン(1−2)の1点目は中盤でのごく簡単なファウル(正面からの体当たり)によるFKからだった。
 Jリーグの創設から8年、「ボールを奪う力」はボールテクニックや戦術的な動きの質や量の向上ほどには進んでいない。


PKで奪われた先制点

 今回のパリ郊外、サンドゥニでの対フランス戦で、その1対1の守備の動きが浮き彫りにされたのだが、この強敵との試合の開始9分にPKで先制されたのも象徴的だった。
 これは左からのデュガリーのクロスをエリア内でピレスがバックワードヘッド、それをアンリの前にいた松田がカットしたが姿勢を崩してリバウンドを処理できず、ピレスが拾ってキープしたところから始まり、森岡を切り返しで外して出るピレスに松田が奪いに行ったときにホールディングし、バランスを崩して倒したことでPKとなった。
 スロービデオを見ると森岡をかわしたピレスの背後から稲本が接触したときも両手で押した形になったが、ピレスはバランスを崩しながらも、体を立て直していたことも映っている。


フェアから始まる

 このPKに対して、レフェリーが厳しすぎるとの意見も聞いた。しかし3月10日、エジンバラで開かれた第115回インターナショナル・フットボール・アソシエーション・ボード、つまり、ルールを決める国際会議は「相手をホールド、あるいはそのシャツを引っ張るプレーヤーに対して、レフェリーがもっと厳しくするように指導する」ことを決めたばかり。スイス人のショホ主審としては当然の笛だったろう。
 フットボールというスポーツはラグビー・フットボール、アメリカン・フットボール、ゲーリック・フットボール、オーストラリアン・フットボールと、さまざまな形はあるが、本流であるアソシエーション・フットボール(サッカー)だけが手を使わないことで、他のフットボールと隔絶している。
 そのサッカーのトップクラスの試合でここしばらく手を使って相手を妨害する反則が目にあまるほど広がっていたのをインターナショナルFAボードが厳しく取り締まることにしたのは、この競技の原点から見て当たり前のことだ。
 1対1の守り、つまりボールを奪う、あるいは奪えないまでも侵入を阻止するといった能力は、練習や心がけによって相当なレベルアップを見込まれる。私たちはイタリアのカンナバーロをはじめとする体格に恵まれなくても守りに優れたプレーヤーの例を多く見ることができる。フランス戦をきっかけに日本サッカー全体がこの点を心がければ、Jリーグをはじめとする各層でのレベルアップが期待される。
 そしてPKで奪われた先制ゴールを教訓に、相手を手でとらえなくても妨げるプレー(手を使う相手に対する用意は必要だが)――フェアなタックル、フェアな態度――つまりフェアプレーに立ち返ることで、日本サッカーのステップアップを見たいと思う。


(週刊サッカーマガジン2001年5月2日号)

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