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番外編 スペイン戦、痛い1本のパスミス。なお必要なキック力アップ

終了直前の決勝ゴール

 スペインと0−1。相手の調子が必ずしもベストとはいえなかったようだが、少なくとも日本よりは強い。だから、0−0で守ろうと思えば守りきれるのだという自信をつけてほしかったし、守ってのカウンターで1点でも取ってもらいたかったのだが…。
 終了直前に奪われた唯一のゴールは、ハーフウェー・ライン近く左サイドのFK、セルジからのロングボールが右サイドへ送られたスペインの攻めに始まる。サルバのムニティスへのバックパスを中田浩が取ったのはよかったが、そのボールを前線へフィードしたのを相手ディフェンスがインターセプト、そこからムニティスに渡り、ムニティスが素早くスルーパスを送り込む。サルバには合わなかったが、第2列から飛び出したバラハがノーマークでシュート、GK川口も防げなかった。
 中田浩がパスを送ろうとした相手は、西澤だったか――中田浩から見て、前方やや内側へのパスコースは、インターセプトされたときはずいぶん危険となる。むしろ、中田浩の位置から真っ直ぐ左タッチラインと並行に送ったほうが、奪われても危険は少ない。
 もし、西澤が開いてボールを受ければ、サイド攻撃として効果があり、たとえすぐに攻めにいけなくても、ライン際でのボールキープによって日本のディフェンスは自分たちのポジションをチェックする時間を持てる。
 Jリーグでも多くのディフェンスが、こうした場面で前方のやや内寄りの味方へパスを送って奪われ、ピンチを招いてしまうことが再三ある。タッチラインに並行にパスを送り込むのは、単に“防ぐ”“安全”というだけでなく、日本サッカーの特長の一つ、ランプレーを生かし、広いスペースを使えることになる。


パスかシュートか

 もう一つ、惜しかったのは、試合の序盤で中田英からのパスを受けた高原が、エリア左角で相手ディフェンスと向き合いながら中央へ走りこんだ中田英へパスを出そうとして、相手の体に当てて、チャンスを失ってしまったこと。中田英が走ったからといって、そこへパスを出すことを第一義にするのではなく、ストライカーはまずシュートへ持っていく気構えが先だろう。
 シュートに入る気配があるのと、はじめからパスを出そうとするのとでは、相手ディフェンスへの脅威が違う。いま期待の高原だけに、こうした場面ではまず突破してシュートを打つ気構えを持ってほしい。
 フランス戦大敗の後、トルシエ監督は代表チームの練習で1対1の必要性を強調した。このときは1対1の守りについてだったが、攻撃でも同じこと。ペナルティー・エリア近くであれば、ストライカーはまず突破してシュートへの姿勢が先であった。そこから、縦に出てのクロスもあるだろうし、シュートフェイントからのパスも出てくるはずだ。
 高原は後半12分頃にドリブルし右でシュートした。利き足のはずのこの右でのシュートが外れているから、よけいに前半のチャンスが惜しかった。


稲本の左足シュート

 シュートで、もう一ついうならば、前半に稲本が中田英からのパスを受けて蹴った左のダイレクトシュートが、ゴールを高くオーバーした。稲本の飛び出しは格上の相手との試合でも、日本の武器ではある。それだけにシュートの精度を高めなければならない。このプレーヤーは右足でのロングパスに定評があり、利き足でない左をも積極的に使うことで上達しているのは素晴らしいが、数少ないチャンスをつかむためには、ワンランク上げなくてはならない。
 彼は前半15分に名波のFKを高原と飛び込んで頭に当て、ゴール正面へつないだ。そこへの波戸の飛込みが合わなかったが…。
 こうして見ると、スペインクラスのチームに負けないためにも“キックやパスの精度”勝つためにも“シュートの精度”つまりボールを蹴る技術を高めることが大きな要素といえる。日本のサッカーの技術アップはJリーグの創設以来、ずいぶん進歩したように見えるが、さらに上達しなければ、世界のトップクラスとの戦いに勝つことはできまい。
 このページで連載しているマイフットボールクロニクルは、いま60年代から70年代にかけて、日本代表チームが個人技術のアップとチームワークの向上を図る時期に差し掛かっている。フランス戦に次いで再び番外編としてスペイン戦を取り上げたのも、60年代より進歩したいまもなお、このクラスと戦うためには個人のスキル、特にキック力のアップが問われるからだ。各クラブの育成担当の努力を願っている。


(週刊サッカーマガジン2001年5月16日号)

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