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番外編 今年のトヨタカップ。大損となったデルガドのファウル

アルゼンチン・サッカーの激しさ

 セリエAやリーガ・エスパニョーラでアルゼンチンの選手の評価が高いのは、彼らが若いうちからボールテクニックとともに戦術理解が高いから(そういう指導をアルゼンチンの各クラブが行なっている)。サビオラだって、すぐに天下のFCバルセロナでクライファートやリバウドのなかに入ってうまくやっている。
「そう、それもある。しかし、もう一つ言えるのは、アルゼンチン・リーグの激しさだ」
「なるほど。ただし、その激しさは、セリエAのように、“計算づく”ではなくて、ときには勢いそのままにいってしまう」
「それでも激しさという素地はすでにあるのだから、セリエAに順応し、計算づくのファウルやレフェリーを欺くことを身に付けるようになるのかな」
 つい一週間ばかり前に、ある南米通(ツウ)と交わしたやり取りだったが…。
 厳しい寒さになるとの予報のわりには11月27日夜の国立競技場は、冷え込まなかったから大助かりだったが、第22回トヨタカップ、欧州代表バイエルン・ミュンヘンと南米代表ボカ・ジュニアーズはエンターテインメントとしてはいささかお寒い試合。バイエルン・ミュンヘンのヒッツフェルト監督の「忍耐強く試合をした」という自分のチームへの称賛は、そのまま観客にも当てはまるほどだった。


オフサイドでシュートして黄色

 そうなった原因の大部分は、アルゼンチン人、マルセロ・アレハンドロ・デルガドの2回のイエローカードによる退場処分で、ボカのほうが10人となったことにある。
 厚く守ってカウンターでというボカの戦略は変わらぬとしても、2トップの一人を欠いてしまいバロシュケロットだけとなっては、リケルメのキープとパスの才能をもってしても、成功率は大激減。攻め込まれて攻め返すというサッカー特有の面白みは、ほとんど消えてしまった。
 そのデルガドのイエローカードの1枚目は、19分に明らかなオフサイドの位置でボールを受け、笛がなっているのに前に出ていたGKカーンの頭上を越すシュートをしたものの、「遅延行為」に当たると判定されての警告。
 デルガドは笛が聞こえなかったとのジェスチャーをしたが、おそらくGKカーンの位置を見て、“蹴ってしまった”というところだろう。


デルガドとカーンの関係

 2枚目は、リケルメからの見事なスルーパスに合わせて走りこんだとき、飛び出してきたGKカーンのスライディングに対して、引っかかっていないのに倒れたのを「反スポーツ的行為」と判定された。
 飛び出してきたGKカーンがスライディングしてもボールに間に合わないとみて、ヒザを折り曲げた(足を伸ばすとデルガドの足にあたる可能性があった)。しかしその前を走ったデルガドが、倒れてしまった。スロービデオを見ても、デルガドに何らかの意思があっての転倒だったのか良くわからないのだが、レフェリーには見せかけの転倒、いわゆるシミュレーションと判断されたのだろう。
 二つ目の「黄色」の前に、デルガドは2度のシュートチャンスをつぶしている。1本はバロシュケロットから放たれたディフェンス・ラインの裏へのパスを追って飛び出したが、エリア外でカーンのスライディング・タックルでボールを奪われた。
 もう1本はこれもバロシュケロットが相手のDFクフォーのボールを奪った後のパスで、ノーマークになりながらシュートを蹴りそこねた。このときカーンはゴールエリアのラインまで前進して構えに入ったが、その動きに目を送っている間に、左から来たボールが右の外へ流れたのかもしれない。
 オフサイドのときだったが、カーンの頭上を越えて、ボールをネットへ入れたデルガドが、この後、二度の対決に失敗し、三度目には自らの退場を引き当てるとは――彼らにはまったくついていない日だったといえる。
 双方の“斬り合い”への期待は外れたが、10人の方も11人の方にも、勝ちへの執着の強さに、あらためて感じ入った。
 バイエルンはゴール前を固める相手に対し、最も自分たちにとって安全で、しかも得意の手、左右からのクロスの空中戦を繰り返した。多国籍軍ではあっても、ドイツのチームらしい意志の強さはさすがといえたし、ハンディを背負いながらのボカの粘りも、まことに胸を打つものがあった。
 来年のワールドカップ開催を控えて、“勝負”を見ることをできたのが、今年のトヨタカップだった。


(週刊サッカーマガジン2001年12月19日号)

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