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世界の“常識”を求めて(15)

プラティニとEURO84

 1984年ヨーロッパ選手権フランス大会(EURO84)は、前回のイタリア大会に比べると、運営もよく、各会場もにぎやかだった。
 82年ワールドカップの後、セリエAのユベントスに移って、得点力を伸ばしたミシェル・プラティニとジレス、ティガナを中心とするフランス代表が、これまでのパスワークに破壊力を加えて初勝利した。
 8チームを2組に分けた1次リーグでフランスは、6月12日にパリで行なわれた第1戦でデンマークを破り、続く16日にナントで開催された第2戦ではベルギーに大勝した(5−0)。そして19日の第3戦、サンテチエンヌでユーゴを3−2のシーソーゲームで下し3戦全勝した。
 23日にマルセイユでの準決勝でポルトガルに勝ち(3−2)、27日にはパリでの決勝でスペインを2−0で制した。
 70年代からフランス・サッカーに興味を持ち、注目してきたミシェル・プラティニと仲間の充実期に出会えたのは、何よりの幸いだったし、ミシェル・イダルゴ監督の「トップクラスのサッカーは、子どもの心に帰るべきだ」との考えに立つ攻撃サッカーの楽しさは格別だった。


欧州の若き俊才たち

 19歳のストイコビッチ(ユーゴ)、18歳のシーフォ(ベルギー)など、次の世代を担う俊才たちもいた。デンマークの強さに驚かされ、ここでも20歳のミカエル・ラウドルップを知る。初めはMF、のちに“猛牛”エルケーアとともに破壊力のある2トップを形成。準決勝の対スペイン(1−1)のPK戦で彼は、一度止められながら、やり直しを落ち着いて決めたが、5人目のエルケーアがバーを越してしまった。
“欧州”の大舞台で“小国”がベスト4に入ったと、車中で出会ったデンマークのサポーターたちは満足そうだったが、彼らのサッカーは、“強国”へと脱皮し始めていた。
 残念だったのは、西ドイツの不調。チーム内のごたごたもあったらしく、デアバル監督が退くことになる。シェーン監督のあとを継いで、80年の欧州選手権優勝、82年ワールドカップ準優勝の成績を挙げるが、この大会の1次リーグ敗退の責任を負う“大国”の厳しさを見た。しかし、才能豊かなシュスターの代表不参加が続くのも、東方の発展途上国から見ればまことに不思議な現象に見えた。


釜本邦茂の引退試合

 帰国した私には、釜本邦茂の引退試合が待っていた。
 アマチュア選手に引退はないという言い方もあるが、停滞している日本サッカー界で、彼の引退を機にもう一度、この時代にどうして釜本のような選手が生まれ、長くプレーをしたかを考えたい。組織的にはなっているが、国際レベルのプレーヤーをなかなか生み出せない選手育成を見つめ直すきっかけにしてほしい。
 ヤンマーの山岡浩二郎総監督に私が提案した理由はそこにあった。
 もちろんイベントを開催する以上は成功しなくてはならない。そのための宣伝広報と入場券の販売、会場看板の設置、テレビ放送との関連、相手チームとゲストプレーヤーの選択などなど、協会やリーグ、電通の力を借りながら、一つひとつの問題点をこなしてゆく2ヶ月はあっという間に過ぎた。
 84年8月25日、土曜日、19時から国立競技場で、ヤンマーディーゼル主催、日本協会、日本リーグ後援、テレビ東京協賛の「釜本邦茂 引退試合」ヤンマーディーゼル対日本リーグ選抜が行なわれた。
 日本リーグ選抜にはラモス、マリーニョ、ジョージ与那嶺といったブラジルトリオをはじめ、リーグの錚々たる顔ぶれ、ヤンマーには西ドイツのオベラートと、ブラジルのペレが加わった。入場券は完売、6万人の前で、なんと釜本は左からのグラウンダーのクロスに合わせて先制ゴールを奪った。
 実力では上のはずのリーグ選抜が、いささか考慮して中盤での激しいプレーは少なく、それだけにオベラートやペレのボールテクニックが生きてヤンマー側の勝ち(3−2)となった。試合のあと、ペレとオベラートが釜本を抱き上げて大観衆の歓呼に応える一幕もあって、イベントとしては大成功だった。
 大スターのイベントの次は、“市民ランニング”の企画があった。


1984年(昭和59年)の出来事
◎1月 天皇杯決勝で日産が2−0でヤンマーを破り優勝。故障の回復不十分の釜本は後半に出場、これが公式試合最後に
    高校選手権決勝で帝京と島原商が延長1−1で両校優勝
◇2月 冒険家・植村直己がマッキンリー山で消息を絶つ
◎4月 ロサンゼルス五輪アジア・オセアニア地区第2次予選(シンガポール)で日本は初戦でタイに敗れ、マレーシア、イラク、カタールにも連敗
◇5月 NHKが衛星テレビ放送開始
◎6月 フランスでの欧州選手権でフランスが優勝
◎7月 第23回ロサンゼルス五輪のサッカーでも、フランスが金メダル獲得
◎11月 第20回日本サッカーリーグで読売クラブが2連覇、2位日産、3位ヤマハ
※ ◎サッカー、◇社会情勢


(週刊サッカーマガジン2002年3月6日号)

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