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ヤンマーの個性 日本代表との差はどこにある


語る人 川本泰三
聞き手 大谷四郎 賀川浩


川本 先月号で、選手は自分で上手になれ、人に教えてもらって上手にしてもらうものではない、と言ったが、それの続きがあるのだ。ここに11月21日付の報知新聞がある。これにあのプロ野球のオリオールズについての記事があって、フランク・ロビンソンというよく打つ外野手、黒人のスターだよ、彼がズバリ言うとるんだ。日本のチームには、やれバッティング・コーチとか、やれ守備コーチとかたくさんのコーチがいるだろう。それを皮肉って言うてるのだ。
「なぜそんなに大勢のコーチが必要なのかわからない。日本の選手は、自分でバッティングやフィールディングを考える習慣がないのか。一体、試合に出てバットを握るのは選手なのか、コーチなのか?」とね。何もボク一人が言うてるわけじゃないのだよ。

賀川 こういうことも書いてあった。第何試合目だったか、巨人の柴田が左打席に出てきた。そしたら監督の指示など何もなしで、ロビンソンがスタスタとポジションを移したら、他の外野もそれにつれてスイスイと移動したというのですね。
 2、3回柴田を経験すると、この投手に対してはここしか来ない、という判断を芯になる選手が勝手にやるわけですよ。それで彼らは、日本にも“考える野球”という言葉があるのを知ってるが、それは選手が考えるのじゃないか、と言いよるそうです。

川本 コーチは“教え魔”みたいになってはいかんということだ。サッカー以外に話が飛んだついでに、ゴルフの尾崎将司といこう。彼のプレーを見ながら、プロ・ゴルフの関係者某氏と話をしたことがあるんだ。大体、彼はプロ野球の失格者として烙印を押されたことになっとるだろう。追い出されたか自分から飛び出したか知らんが、その彼がゴルフで大成したらちょっとおかしなことになるんじゃないか。飛ばすだけがゴルフじゃない。ゴルフというのは非常にメンタルな要素がきついスポーツなのだが、そこの尾崎が大成するとは、その彼を手離したプロ野球がそもそもちとおかしいのではないか、とボクが言ったら、そのゴルフの某氏は、いやそれはプロ・ゴルフ界の方がおかしいですよ、と言うのだな。

大谷 どっちもちょっとおかしいな。ところで、尾崎はとにかくナンバーワンになったが、そのままずーっとうまくゆきますかな。

川本 それについてある古いゴルファーがこうも言っている。彼は筋肉的には野球で鍛えているし、才能ももちろんある。しかし、キャディ育ちの、つまり15〜16歳のころからゴルフで育ってきた者と、どこかでやはり差がつくだろう、というのだ。負け惜しみかも知れんがね。

賀川 30歳台になって、筋肉的なものの強さが表面に出なくなったときが問題だろう、と言う人もいます。

川本 それと似たことが釜本にもいえる段階にきたね。近ごろ釜本も大分いいアシストができるようになったようだ。進歩だね。ヤンマーは優勝したが、今村がものになってきた。対古河の二点目などはいいプレーやった。得点は三田だが、左へ回って、縦パスをもらってスーッと出て、ゴールラインまでグッと持ち込んだプレーだ。

大谷 ヤンマーは他のチームにないものを持ってるが、他のチームがもうひとつだったな。

川本 それもあるが、ヤンマーには個性のある選手が多い。これが優勝した一番の要因だろうな。どの選手を見ても同じようなことをやっているチームではない。そんなチームは逆に落ちたね。例をあげれば東洋。これは選手の新旧切替えだけによるものではないよ。

賀川 とにかくある程度ボールを持てるという選手が中心に何人かいるのが強い。

大谷 鬼武監督が「とにかく中盤のものに渡しておくと、ある時間持ってくれる。これでバックスが非常に楽になった」と言うてた。

川本 ドリブルでも何にしろ、とにかくスピーディにやれというのが金科玉条のようになっとるようだが、ヤンマーが効果をあげているのはスピーディならざるキープのためなのだ。吉村、小林ら。それがいまのバックスが余裕をもてることになる。その辺に一見矛盾したような真実があるのだな。

賀川 テレビの解説者がヤンマーはドリブルが多い、ドリブルにこだわりすぎている、としきりに言っていたが、確かにそういう見方もあるだろうが、あのようなゆっくりしたキープがあるから、対古河でも1点目の釜本がぐいっと飛び出たプレーや3点目の釜本の縦パスに松村が走り抜けたプレーの速さが生きてくるのですよ。古河や三菱のように年がら年中あの速さでビュービュー走ってたら、しまいにその速さが速さでなくなってきますよ。

川本 あのスピーディならざるキープが、たまたま“ため”になっているのだ。その“ため”があるからこそ次のプレーに効果が出てくる。ナショナル・チームにはその“ため”がないのが大きな欠陥だ。これがないと緩急がつかない。ヤンマーといわず、これからは緩急の落差を大きくすることが日本サッカーの生きる道だと思う。肉体的な条件からみては、ヨーロッパの骨太に勝てるとは思えない。スピードも然り。ボール・テクニックは何とか追いつかないかん。それはタイになったとして、肉体的な差を補うのはこの緩急の落差を大きくする以外にない。

◆ ◆ ◆

大谷 緩急の例だが、東洋−新日鉄で東洋が負けそうで勝ったのは、小城、二村が中盤で一度テンポを落とし気負う新日鉄のバックスの最もいやなところへ球を動かした。そのために押された試合ながらも新日鉄をヒヤッとさせる攻撃を何回かみせていた。それに比べ、7分以上攻めていた新日鉄や対ヤンマー前半の古河は、間一髪のチャンスは次々に生まれたのだがすべて30センチほど頭の先をボールが通ったとか、少し足首を捻っていたらゴールしただろうとか、右足でなく左足に当てていたらとかほんのわずかなことでゴールを失敗している。ということは、そのチャンスたるやパッと生れる全くハプニング的なものが多い。いつも攻めているのに、中盤あたりですでに、「うん、これはものになりそうだぞ」という予感がしないんだ。

川本 あまりにも一瞬の、秒以下の勝負に拘泥しすぎてきた。パスは点で合わそうと、そのために走れ走れとね。ちょっとずれても、何とかひっかかる余裕のあるパスなり動きなりが欲しいよ。

大谷 ところで、話は戻るが、ヤンマーの一つの“ため”になる吉村のドリブルだが、ナショナル・チームへ行ったら、あまり生きとらん。どうも「離せ、離せ」と言われるらしい。ヤンマーにかえって、また吉村は個性を取り戻した感じがする。

川本 ボクは以前から聞いていた。日本代表チーム側では、合宿に来た選手はみんなフラフラしてしばらく使いものにならないという、かたや単独チーム側では日本代表から帰ってくるとやり直しと言いよる。そこで、先般技術委員会で双方に言ったのだが、日本代表のコーチも単独チームのコーチも互いに思うことを率直に話し合え、もっと相手にとって嫌なことを互いに言え、それをやらないと技術委員会の意味はないと思うんだ。

大谷 五輪予選の自己反省ということも、そうすればいくらかできるのではないかな。

賀川 日本代表のコーチング・スタッフはいつも単独チーム側のコーチと連絡を密にしないといかんとか、もっと各チームのコーチはしっかりしてくれないと困るとか言ってるのを聞くが、日本代表側からだけ言ってはダメでしょうな。

大谷 つなぐパイプが上からの一方通行ではあかんよ。


(『イレブン』1972年1月号)


<試合記録>

日本サッカーリーグ第12節

古河電工 0−3 ヤンマー
1971年11月21日 東京・国立競技場
主審:高田
試合開始:14時00分

GK 小松     赤須
FB 小糸     カルロス
   鎌田     湯口
   宮本     浜頭
   荒井     北村
HB 上野     吉村
   桑原     小林
   吉水     松村
FW 永井     今村
   木村     釜本
   奥寺     三田
  (田辺)

得点:
今村(25分、アシスト釜本)三田(75分、アシスト今村)松村(85分、アシスト釜本)


*関連リンク(KSL)

サッカーのために最初にブラジルから来日、大きな衝撃を与えた日系2世 吉村大志郎ネルソン

*関連リンク(外部)

フランク・ロビンソン(Wikipedia)
柴田勲(Wikipedia)
尾崎将司(Wikipedia)
今村博治(Wikipedia)
鬼武健二(Wikipedia)
1971年のJSL(Wikipedia)

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