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千差万別のスイングの中に基本がある 

話の弾丸シュート第4回
聞く人 賀川浩(サンケイ新聞)


キックのスイング

――先号で高校選手権大会の決勝がなかなか良かった、という話が出ましたが、あの大会の会場については、当分、関西で続けることになったようですネ。

川本 50年以上も関西で育ててきた大会の、会場を変えるというのはね…、それも商業主義から出てくる話ではアマチュア大会として困ったものだ。第一、あの時期の関東地方のグラウンドコンディションは昔から良くないんだ。この点からも東京での高校大会開催は感心しない。

――ベッケンバウアーも、日本では何もかも良かったのに、国立競技場のグラウンドコンディションだけは悪かった、とはっきり言っています。あれでは熱心なファンに自分たちの技術を充分お見せすることはできない、と残念がっていました。

 さて、技術の話ですが、前回はそのベッケンバウアーのパスのうまいのは、彼のボールの持ち方のうまさが、まず前提になっているというところまでゆきました。こんどは、彼の中距離パスから、キック、つまりボールを蹴ることについて語ってほしいのです。

川本 うん、ドリブルのことしか言わないと思われても困るから、キックにうつろうか。東京オリンピックの前にクラマーが指導に来た。たしか最初の来日のときだったか、彼と話し合ったときに、キックのコントロールに及んだ。クラマーが言うのは、軸足(立ち足)を蹴る方向に合わせて、それにそって蹴り足をスイングするというやり方だ。これはおそらくハンガリアン・メソードから来ているのだろう。しかし、ボクは、日本には、ガニ股つまり外輪の足の持ち主が多い。そういう連中の蹴り足のスイングは横に払うような形になる。クラマーの言うようなスイングはできないんじゃないか、といって、論争になったことがある。この論争は、まあ、クラマーも、そういうこともある、というようなことで落ちついたが、ボクのいうのは、キックのスイングは人によって全部、形が違うということだ。ゴルフのスイングでも、野球のスイングでもそうだろうと思う。問題はインパクトのときに、きちんと方向を向いているかどうかにある。

――昭和20〜30年にかけての名ウイング鴇田正憲(ときた・まさのり)がやはり横なぐりのスイングでした。彼が少年のころ、インステップで蹴らせても、当時の指導テキストにあるような、けり足を真っすぐに前へ振るというスイングはできませんでした。しかし、そういう横なぐりのスイングで結局はインステップできちんとインパクトし、正確なパスをし、シュートをするようになりましたヨ。

川本 そうなんだ。千差万別のスイングのなかに基本があることを知らなければいけない。横なぐりのスイングに、縦ぶりを押しつけてはいけないのだヨ。個性のなかに基本をつかむことが大切なんだ。

 子どもにボールを蹴らせてごらん、必ずその子の角度がある。ボールを蹴るため、スイングしやすい角度があるハズだ。その角度は大人になっても変わらないと思うね。その角度を大事にしてやりたい。ゴルフでもはじめてクラブを握って振ったとき、そのスイング、その形が、その人個有のものなのだ。それはその人にとって、いちばん合ってる形だから、それを、他の上手な人の形に変えるなんてことはできない。自分の形でインパクトをいかにキチンとするかを考えるべきだ。

――日本では野球のコーチなどでもフォームやスイングを直そうとする傾向が多いようですネ。

川本 サッカーの指導でも、そういうことが多いのと違うかナ。最近はコーチングコースで勉強した指導者たちが、実際にどういう教え方をしているかを見たわけではないんだが、ときたま日本リーグを見て、良いシューターがいないところをみると、形から入るスイングを教えているんじゃないかと思う。

――これだけ、たくさんの人がサッカーをやり、しかも、子どもの時からボールになじんでいる数は昔と比べものにならないほどなのに…ということですかネ。

川本 ハンガリアン・メソードとか、外国の指導の考え方や、指導法は決して悪いとは言わないが、その人の体格上から生まれた個有のスイングから始めなければいけない。シュートにしても、この角度から蹴ればゴールのどちらかのスミにゆく、というようなものは誰でも持っているのだから…。


シュートの“コツ”

――シュートが出てきましたから、ここでシュートのポイントを話してください。

川本 これは第一にコントロール、第二にいかにたくさんシュートするかだネ。いかに多くシュートをするか、というのは、ゴール前のいい位置から、どのようにボールをコントロールしてシュートするかだ。自分の前に敵がいたら、パスの相手をさがしているようではダメだ。もちろん、ボールコントロールの技術、蹴るためにどれだけのスペースが必要かということもあるが、相手が前にいてもける気になることも大切だ。ブラインド・シュートはシュートのなかでも大事なことだから。

――ゴールキーパーにとってボールの出どころの見えないブラインド・シュートはいやなものですからね。シュートコントロールのコツといったものはありますか。

川本 これはキックコントロールの原理と同じで、インパクトをきちっとすることだが、もうひとつ、フルスイングはほとんど必要ない。ボクは中距離シュートも50パーセントの力で蹴れと言っている。

――力いっぱい蹴ろうとすると余分な所へ力がいくんですね。

川本 中・長距離パスでも同じことだヨ。オベラートでも、ベッケンバウアーでも、力いっぱい蹴っているわけではない。ボクは20メートルくらいのシュートならバックスイングなしで蹴ったからネ。

――それはそうと、パスは正確に出せるのに、シュートがまずい選手がいるでしょう。

川本 パスを出すときの本人の余裕が、ゴール前でもあれば同じことだと思う。テレビなどで見る外国チーム同士の試合でも、ペナルティエリアあたり、あそこからなら、まず確実にワクへシュートがゆくという選手が、もっとたくさんいてほしいネ。これはやはりコントロール不足、つまりはシュートの練習不足だろうと思う。

――川本さんは右キキでしたが、左足のシュートがよく入りましたね。

川本 右キキだから、右は色々できる。アウトサイドでも蹴れるし、トウキックもできる。スイングが始まってから、状況に応じて途中で変えられる。しかし、左ではそうはゆかない。スイングはひとつ、角度はひとつだ。逆に、それだけに、そのひとつのスイングで蹴るシュートの精度は高かった。だから、右へゆこうとして左へ出て、左足で蹴るシュートはよく決まった。二宮洋一(昭和10〜16年、慶大のCF、名ストライカー)も、左のシュートの精度は高かったヨ。キキ足でない方のスイングはむしろ素直で、この方が正確に蹴れることはプレーヤーなら経験があるだろう。これは反覆練習以外にはないネ。ここで、こうなったら必ず入る、というふううにボクがなったのは早稲田へ入って2、3年かな。練習はやったヨ。シューティングボードと一日向き合って飽きなかった。4、5年前に早稲田へいってシューティングボードを見たら、塗りもはげていない。あんなことではシュートが上達するハズがない。ボクはボードが破れるくらいやった。もうひとつ、シュートの練習の際に一本一本、状況を想定してやらないとダメだ。


(『イレブン』1975年4月号「話の弾丸シュート」)


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